チームラボオフィスの空気環境(CO2)を測定して改善している話

数週間前から、同僚の間で「なんかやたらと眠い。集中力でない。空気が悪い気がする」という声が聞こえはじめた。
僕は東京オフィスにいないのだけど、弊社社員の「会話」ってほとんどはslack上で行われているので、同僚が何話してるかはだいたいわかる。
勤務先であるチームラボのオフィスは2012年2月に引っ越して、それまでよりだいぶ広くなったのだけど、おかげさまでこの3年で社員数もプロジェクト数もだいぶ増えて、たぶん倍近くにはなっている。どのフロアも空きスペースを探すのが大変になってきて、外部打ち合わせが多い一部のマネージャーや役員は「席がない」状態になってきていたり、大きなプロジェクトだと近所に分室を借りて移ったりしている。混み合っていることで、空気にも影響が出てきてるとは。
もちろんオフィスには空調が常時入っているんだけど、たぶん暑いか寒いかしか見ていないのだろう。

引っ越し直後。まだなんにもない。

「窓を開けて換気するとすっきりした」とか、「トイレ(比較的人口密度が低くて窓が開いてることが多い)に行くと眠気が覚める」みたいな声も出てきて、

「たしかに、締め切ってると悪いから、窓を開けて換気をしよう」という話になった。
具体的には企画室という総務みたいなセクションが1日2回ぐらいに全フロアの窓をあけてまわり、就業時間に戸締まりを見て回る(夜に勝手に開けられると開けっ放しになるリスクがある)かたちでとりあえず始めてみた。

が、これはこれで問題を引き起こした。外気が入ってくると寒いし、花粉も入ってくる。
二酸化炭素への耐性に個人差があるようにこっちも個人差がある。しかも、窓のそばの人はみんなのためにかなりワリをくうことになるし、窓は開けてくれるだけで閉めるのは各自だから、「寒いと思ったらフロアのどっかの窓が空いてるっぽいけど、どこだかわからない」というストレスフルな状態も招く。どのぐらいの時間、窓を開けていれば良いのかもわからない。

とりあえず開閉できる窓にマーキングするなど、要望が出るたびに対症療法していたようだけど、全員が満足する解決策はなさそうだし、どうするんだろうなーと思っていたら、面白いことが始まった。定期的に行われているオフィスについて話し合うミーティングで、いまいち正解が見えないのに業を煮やしたデザイン部の某社員が、アキバでCO2をモニタリングする機械を買ってきて、オフィスの数カ所で二酸化炭素濃度を測ってみたのだ。ある程度結果がまとめられて、2日前に企画室から同報メールが来た。

企画室からのメールによると、二酸化炭素濃度が高まると肩こり、眠気、集中力の欠如などが起こるという。

<おおまかな二酸化炭素濃度の目安>

350~450ppm 過剰な換気(外気:330~400ppm)
450~700ppm 理想的な換気レベル
700~1000ppm 換気が不十分(室内では1000ppm以下に抑えることとされている※)
1000~1500ppm 悪い室内空気環境(学校環境では1500ppm以下が望ましいとされいる)
1500~5000ppm これ以上の環境で労働をしてはいけない(労働安全基準法では、5000ppmが限度)

5000ppm以上 疲労集中力の欠如(締め切った車の中は、5000ppm以上になることもあるらしい)

※建築物衛生法、建築基準法、労働安全衛生法

<人体への影響>
1000ppm 思考力に影響し始める
2000ppm 眠気を感じる人が出てくる
3000ppm 肩こりや頭痛を感じる人が出てくる
3000ppm以上 集中力や意思決定に支障をきたす

研究者らによると、

「室内の二酸化炭素濃度が2500ppmや3000ppmに達したとしても決して健康に害があるわけではないが、集中力や意思決定に支障をきたす可能性があることは明らかになった」とのこと。

二酸化炭素濃度を上昇させないためには、とにかく室内の換気が重要だと指摘しています。

メールには出展として「米ローレンス・バークレー国立研究所とニューヨーク州立大学の研究報告」とあった。とりあえず目安にするにはよさそうだ。
CO2が増えると、健康への害はないとしても、仕事への影響があるようだ。学校の教室ぐらいの密度で締め切ると3000ppmなんてこともあるという。

ピーク時、自席で打ち合わせを始めるとこれぐらい混雑する時がある

企画室からのメールには社内で測定した結果もまとまっていて、オフィスの複数箇所で二酸化炭素のモニタリングをしたところ、たしかにダルくなってくる午後3時頃、「悪い室内空気環境」になっていた。同じ箇所で計測しながら10分程度窓を開けると劇的に降下して許容できるレベルになったという。
そのあと50分ぐらい窓を開けっ放しにしても、もちろん数字は改善するのだけど、最初の10分を超える効果はない。

つまり、「なんか空気が悪いと思ったら10分ぐらいこまめにあけて換気する」のが一番良い、「開けっ放しは意味ないし、回数はたぶん多いほど良い」という結果がとりあえず出た。弊社はエンジニアの集団なので、こういうロジックと数字が見えるとみんな納得して動きやすい。

実際には、フロアにいる人数とかが影響するだろうから、「ルール作って確実に何時間ごとにやる」みたいなことにはならないだろう。人が少ないフロアは換気しなくても問題ない、という結果も報告されていた。

今のところは「体感的に空気が悪いと思ったらその人が窓を開ける、閉めるのは誰でも良い」みたいなソリューションがよさそうだ。効果が出たから、各フロアでCO2をモニタリングしようみたいな話も出てくるだろう。窓開けがあまりに頻繁だったり、個人によって意見が異なりすぎるようなら、継続的なモニタリングとか、窓の開け閉めの自動化(借りてるビルなのでちょっと大変そうだけど)または、何か機械的に換気するソリューションみたいな話も出てくるんじゃないだろうか。
今でもフロアごとにslackがあって、「7階の誰か窓開けて」みたいな話はしてるから、CO2が上がったらそこにアラート出す、みたいなことは比較的現実味ある気がする。

もちろん、将来的に引っ越しするなり、根本的な解決ができればもっといいに決まっているけど、「明日からこれでなんとかなる」というのもすごくだいじなことだ。典型的なハックである。それに、今回の結果は次のオフィスの設計とかにも影響するかもしれない。

開発サーバや社内コミュニケーションツールをクラウド化した時(経緯は「上司が信用できない会社の内部統制」にまとまっている)同様、今回のやりとりにもたぶん役員(上司)は関わっていない。
チームラボでは今も、社内の誰かが作った、「今日の東京ドームのイベントbot」(人気コンサートとかがあると、帰りにすごく混雑する)は運用されていてみんなありがたく思っているし、社内の会議室予約システムがあまり直感的でないので、GUIつけてChromeの機能拡張にしたエクステンションが回っていたり、「様々なプロジェクトのRedmineへのショートカット残チケット数を集計」するエクステンションがあったりと、社内システムへのHackは日常的に行われていて、やった人を褒めたりテストに協力したりするカルチャーがある。

会議室テーブルの機能拡張。社内のGoogle appsアカウントにログインしないと動かない

みんなが自由にいろいろなことを言えるし、おかしいと思ったらすぐ口に出すこと、自律的に行動すること、結果が数値やロジックに落ちて共有されること、それぞれ大事なことだと思う。エンジニアが多くて、コミュニケーションルールがエンジニアっぽい(工学部っぽいとか理系っぽいとも言われる)会社だと、こういうところがいいなあと思う。なんというかMakeっぽさがある

ブログを上げたら、企画室の人から「実は湿度とかもとってるので、他にも面白い結果でるかも」とのこと。対応が前向きになるのはいい。植物で改善できるかもとか。

今回は市販のCO2センサーを買ってきて調べた、というだけなんだけど、ハックできるものを使っていろいろやりたい人は、おうちハック同好会というコミュニティが、スマートホームがらみのことをいろいろやっていて、メイカーフェアにブースを出したりしている。同好会なんだけど、仕事でSONYのスマートホームやってる研究者から市井の愛好家までいろんな人が参加している。たぶんこの手のものって、実際目の前に困っているエンドユーザが開発して自宅で試す、みたいなモノのほうが良いモノが生まれる気がする。

参考(1/16追記):これは自室にて、夜に締め切ってエアコンつけて寝たときのCO2数値。6時間もいるとえらいことになる。 計測はWithingsの体重計にCO2計測機能もついてるやつ。体重や体脂肪は乗ったときだけ測ってくれるんだけど、CO2は30分ごとにずっと測ってネットに数字を送ってくれる。

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・自室は四畳半ぐらい コンクリート鉄筋のマンションの一室
・窓はアルミサッシで閉め切り
・この日(金曜夜)は0時ぐらいにベッドに入って、しばらくiPad+Kindleで本を読んでた
・土曜なので朝寝坊してた。目が覚めて1時間ぐらいiPadでネットサーフィンしてた

コレを見ると、ベッド入ってから2–3時間ぐらい本読んでたから、その間はみるみるCO2がたまり、ぐっすり寝たであろう間はあまりCO2出してないことがわかったりして面白い。
「寝っ転がってる」と「睡眠してる」で、必要な酸素は違うんだなぁ
(このグラフはWithingsのWeb画面から見られるんだけど、軸に数値だしてほしいけどなあ)

とはいえ、蒸し暑いの我慢しても、窓開けて寝たほうが、酸素いっぱいとれるのか、、

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TAKASU Masakazu/高須正和
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Written by TAKASU Masakazu/高須正和

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