Bitcoin=もう一つのお金 と Fintech=今のお金 (2016年1月13日)
自分の頭の整理のために書いてみる。
Bitcoinの話とFintechの話が一緒に語られることは多いけど、あんまり関係がない別の話だと僕は認識している。言葉の定義は人によって揺れがあるけど、「僕はこう思う」をまとめるのは、この先つづけて考えるのに大事なことだ。
シンガポールはこの関係のイベント多くて、今年は見に行くこと多そうだし、一回まとめて描いておくと、「ここが違う」みたいな話もできる。
ハッカースペースシンガポールに置いてあるビットコインATM。シンガポール人の僕のハッカー友達がこういうのを置く理由は、「なんか楽しそうだし知りたいだろ」である。
今のお金を相手にするFintech
FinTechは、今のお金をテクノロジーの力でナントカしよう、という話だ。
たとえばお金持ちは、専用のファンドマネージャーに運用してもらえる。プライベートファンドマネージャーがやっていることは、お金を
・すぐ換金できるもの(利率が低い)
・すぐ換金できないもの(利率が高い)
・利率が高くリスクも高いもの
・利率が低くリスクも低いもの
に最適な感じで分配することだ。この「最適」は、「来年家を建てるからちょっと現金ほしい」とか、「危ないけど可能性ある会社にたくさん出資することに決めたので、全体のバランスが崩れないようにほかの資産からうまい形で取り崩してxxx万ドル用意してくれ」「あと30年で死ぬことがわかったし子供もいないので、バキっと増やして宇宙開発とかやりたい」など、しょっちゅう変わるので、いまのところは人間がやる必要がある。
また、資産の価値も、「40年前ぐらいの日本はハイリスクハイリターンだったけど今はゆっくりだけど簡単に滅びない国だなあ」みたいに、それなりにかわる。
この「リスク」と「増える見込み」はどっちも統計で数値化できて、数値化できるわけだから計算して足し算引き算したりできる。「東南アジアテクノロジーファンド」みたいなファンドはそうやって作っていて、個別の株券や企業を見なくても、このファンドを買うと「だいたい東南アジアのテクノロジー企業の平均値」ぐらいのリスクとリターンの投資ができる。こうやってファンドになってるものは、市民でも買える。この場合のファンドマネージャーの仕事は「総額xx億円のファンドを管理すること」で、その総額が貧乏人からのお金を集めたものでもあまり気にならないから。
プライベートのファンドマネージャーがやっているサービスのうち、どのぐらいが「その人」に張り付かないとできないんだろう?それはITで効率化して、価格を千分の一にする代わりに1万人にサービスを提供、みたいにできないだろうか?
上記の仕事は、かなりコンピュータ+ネットワーク、つまりIT技術の助けをうけて効率化・代行できる可能性がある。昔は専用のホワイトカラーが200人必要だった仕事が今は月額何百円か、または広告が表示されるけどタダで使える、みたいなサービスはいくつもある。金融もその対象になりつつある、ということがFinTechだと認識している。
(僕みたいな庶民がちゃんとしたリスクの見積もりができるかは怪しいけど)
あるいは、銀行その他「お金をあつかうサービス業」の業務効率がすごく上がって、そのぶん高い利率やサービスがうけられるようになるかもしれない。「やりとりの仲介をして手間賃をもらう」というサービスは、ITでいろいろ効率化されるし、効果がお金で見えやすいから、そういう効率の良いサービスができたら、みんな使いたがるだろう。ネット証券が一気に伸びたみたいに。
新しい金融、ないしお金が関与したサービスができたり、作りやすくなったりするのかもしれない。もともと、銀行がある前は「無尽」といって、商店主たちが「12人で毎月10万円ずつ出す。ある月に120万円入ってくるからまとまった投資ができる」みたいなことはやっていた。
僕も、「会費月5000円で会員24人、毎月12万円のガジェットを買って遊び倒す会」みたいなことがあったらやってみたい。飲み会日程調整の「調整さん」みたいに、そういうのが手軽にできるサービスとかも出てくるんだろう。今も割り勘支援のサービスとかがある。
なお、ものすごい工数をかけた金融工学の結果、リスクとリターンは釣り合うことになってるようなので、FinTechももちろん「少ないリスクで大きいリターン」を出すものだとは思わないし、むしろそういう文言は信用を見分けるリトマス試験紙になりそうな気がする。
お金じゃないお金みたいなものを作ろうとしているBitCoin
BitCoinについての、決定版:ビットコインとは結局なんなのか?ほか、「技術的に効率悪いよね」的な指摘はおおむね正しいと思うし、そこに触れずにいろいろ言う人は何かしらポジショントークというか、「自分の利益のために都合の悪いことに触れない人」のにおいがする。人間何かしらその気はあるけど、その色が強すぎる人の話は眉につばをつけてききたい。
僕は去年シンガポールでInside Bitcoin 2015という世界最大のビットコインカンファ(と主催者は言っていた)に出たけど、参加者やスピーカーを見る限り、推進してる人の多くは、商売のにおいをかぎつけた人を除くと、
・暗号化とかインターネット匿名化とかがすごく好きそうな人
(フランスとかに多い。ここに書いたけど、ヨーロッパ特にフランス、そういうの好きなギーク多い。TOA機能付きルーターとかがKickstarterに出てくるとそっち系だったりする。シンガポールはFinTechやBitCoinのイベント多くて、具体的な話がやりやすい。
余談だけど、FinTechは金融とITに両方詳しい人が法整備しないとならないので、そこでシンガポールはメチャメチャ強い(アジアではいちばん強そう)だと思っている)
なので、BitCoin=お金=ビジネスチャンス 的な話はうさんくさいと思っているけど、「お金じゃないもの」には可能性を感じている。
お金は非常にロバスト(どこでも通用する)な価値がある。だいたいの価値(個人情報流出の迷惑料とか)がお金に換算されるので、価値そのものと見なせるぐらいだ。しかも数字でカウントできて便利だ。だから、きっちりと管理しなければならないし、いい加減に扱えない。前述のFinTechにはたぶん、電子メールのクラウド化みたいなものよりも高いレベルのセキュリティとか、システムのきっちりさが要求される。データベースシステムで言うと、とてもアトミック(処理が重複しない)的にする必要があって、「いい加減だけどたくさんデータを扱えるし、だいたいはうまく動きますよ」みたいなインターネット的なやり方が通じづらい部分だ。今でも緊急通報とかはIP電話やSkypeにできないし、(「skypeでも受付」ならOK)信書や配達証明みたいなものも絶滅してない。
それだけに、「気軽に投げ銭」みたいなシステムは実装しづらい。クレジットカード等の電子お金やりとりシステムも、手数料や最低取り扱い金額がいる。
(ITパワーでかなりさがってきてはいる。ビットコイン好きの人が、「銀行送金だとxx円かかる」みたいな話の時に、Paypalが例に出ないのがなんでだろう。また、ITの前から「送金屋(Remittance)」という、複数の取引をまとめて安い手数料であつかってくれるサービスはあった。このまとめる部分はITがワークするから、もっと手数料さがりそう)
お金じゃないもの、ポイントシステムだと、もうちょいフレキシブルに作れる。お金は大事だから様々な法制度の規制を受けるけど、ポイントはもう少しあやふやでゆるいものだ。
問題は、ポイントがまったくロバストじゃないことと、発行元の色がついちゃうことだ。amazonギフト券ぐらいになるとだいぶ嬉しいけど、先にamazonから買ってこないとならないのはきびしいし、AppleやGoogleや楽天が採用してくれるとは思いづらい。
ビットコインないしほかの色がつかない仮想通貨システムだと、大手の何社かが採用して、「お金ほどきっちりしてないけど、まあまあロバストなサービス」になり得るんじゃないか。大手が取引をまとめてくれれば、トランザクションの数も減ったりとか、いくつか技術的な課題が解決に近づきそうな気がする。基本的には大手におんぶにだっこで良いんだけど、「いざというときに乗り換えができる」が担保されているのはすごく大事だ。Tポイントみたいなものとは世間からの見え方が違ってきそうな気がする。
そして、「気軽に使えるお金みたいなサービスだけど、多少価値がはっきりしない(換金しようとすると少し価値がブレるし1ヶ月かかる)もの」というのは、たとえば投げ銭みたいな用途に、今より便利に使える気がする。
お金だけどいつものお金じゃないもの、たとえば海外旅行で外貨に両替すると、急に気前が良くなったり逆に小銭に敏感になることはよくある。そういう金銭感覚の変化から何かが生まれることもあるだろう。
ひょっとすると、仮想通貨について描かれた近未来小説「アンダーグラウンドマーケット」シリーズ(僕がいちばん好きなのはアービトレーダー)みたいな未来がそこから生まれるかも知れない。
そういう可能性はいろいろと感じるので、BitCoinに注目が集まってるんじゃないかと思っている。
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