「ハードウェアを一般販売するのは超大変だ!!!!! それでも面白い!」 に30万円投資してみた結果(2016年01月26日)
メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))
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インプレスR&D (2016–01–29)
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これは、メイカーズのエコシステムを書きながら、「この部分は僕のブログでも公開したいな」と思っていたモノだ。もう少し時間ができたら書こうと思っていたけど、伊予柑のすばらしいレビュー「夢見るギークのTell Your World?」を見て、今書こうと思い直した。(し、もともとは転載するつもりだったのだけど、改めて書き直した。)
特にハードウェアを一般販売するのは超大変だ!!!!! それでも面白い!の一言にグッときた。たしかに、!が5つつくほど大変だと思う。本では、ここに書いたような内容は、「クラウドファンディングと同人誌マーケットがちょっと似ている」ような部分だったり、「ハードウェアを作るのは本当に大変」さを説明した部分に出ている。本の方では、下の表の中のOTTOに注目して、アップデートの内容をざっくり訳したりしていて、全部転載するのはちょっと長すぎるし、その前の章を読んでないとわかりづらいと思われる。
下の表は、僕が2014–15年の2年間で、Kickstarterで支援したプロジェクトのリストだ。書籍では51ページに掲載されている。
僕は14のハードウェア系プロジェクトに合計2599ドルを出資している。(相手のサイトに名前入れるだけとか、ステッカーみたいなカンパ系は含めていなくて、モノを約束しているやつだけ)
うち、いまのところ手元に納期どおりにモノが届いたのはわずか2プロジェクト398ドルぶんだけ。金額では全体の2割にも満たない。数ヶ月以上、大幅遅れしたのは696ドル分。提示された納期がまだ来てないから、期待を込めて待っているのは337ドルぶん。ちゃんと来たプロジェクトより多い1188ドル分は納期遅延で、進捗状態のメールはよく来るけど、正直いつ来るのかわからない。
赤字のものは、納期通りにこなかったけど、執筆時には届いていたもの。赤字の上に背景がグレーになっているものは、執筆時でも来ていなかったものだ。
いつもガジェット系のニュース見てる人ならわかると思うけど、この表にのってるのは実現性の薄い「きわもの」ではない。腕輪から手にプロジェクションするのだけど、なぜか黒色が出てる(光の三原色で色を出すはずなのになぜ?)的なものは入っていない、しっかりしたほうのもので、僕はたぶんコンサバな、あまり冒険してないほうのプロジェクトに出資してるほうだとおもう。(えー?と思ういうプロジェクトに出資する人が、だまされてるのか「こまけえことはいいんだよ」なのかは興味ある。僕が見て怪しいと思うことぐらい、Kickstarter使うような人ならかなりの人がわかるはずだ。)
CNNは2012年に、「ハードウェア系のプロジェクトで、成功した(出資が集まった)もののうち、82%はきちんと出荷できていない」というレポートを出した。その後Kickstarterでは審査を厳しくして、CGだけの製品ビデオを禁止したり、「(プロジェクト成功についての)リスクとチャレンジ」の項目をきちんと書け、という指導をした。同時に出資するお客さんに対して、「Kickstarterはお店じゃない(ので、お店と違ってきちんとこなくても覚悟しよう)」というキャンペーンを貼った。
どうやら、作る方への規制は、そこまで効果が無かったーおそらく、多くはもともと頑張ってるのに遅れてたわけだし、大半のプロジェクト主は不具合を隠してたんじゃなくて、自分でもわからないぐらい脳天気だったーようなのに対し、お金を出す側はあまりコリず、時間通りに来なくても出資しているようだ。
伊予柑とこの話をしていて、「同人誌だなー。同人誌、買うけど読まないなー」と言われて腑に落ちた。
僕はあまり、見ないブルーレイBOXやDVDセット、握手券としてのCDは買ってない。でも、上記のハードウェアを買った理由の大半は、「プロジェクト主に実際に深圳で会って、もっと仲良くなりたかった」「メイカーフェアで見かけて面白いと思った」「なんか届いたらネタ的に面白そうだ」などだ。
買った瞬間までがネタの同人誌や、近づく手段としての握手券付きCDと、そういえばあまり変わらない。2年間で慣らすと月1万円ちょっとなので、そのぐらいの割合で実用性のないものを買ってる人はけっこういる気がする。僕は自転車とかパソコンの自作に使っていたようなお金を、シンガポールに来てから使わなくなったからコレに使い始めた気がする。飲み会もなくなったし。
赤字で書いてある、つまり来ていないプロジェクトも、月一ぐらいでは進捗のメールを送ってくる。「自分たちで手作業で製造始めてみたら一個つくるのに半日かかってとてもダメなので中国で工場探す」とか、「360度を3つのレンズで写真撮るんだけど、なぜかカメラごとにホワイトバランスが違っちゃってて合わせるのに苦労してる」みたいな、しょーもないものも多い。プロジェクトによってはそのメールの方が面白くて、むしろコイツら、コンテンツ作るためにプロジェクトやってないか?と思うものさえある。ほとんどニコニコ技術部の失敗動画のノリだ。
でも、そうやって報告しているプロジェクトの多くは、更新される「また遅れました」のお知らせに対して、出資者からの応援のコメントがつく。そういうとき僕もちょっと、「ああ、メイカーフェアで見たあの人は頑張ってるし、その頑張りが伝わってるなあ」と思ったりするのだ。しょーもない失敗でも。そして、大変そうだけど頑張って問題解決するの楽しそうだなあと思ったりもするのだ。メールだけ空元気なのかもしれないけど。
上記の表でたった2つのきちんと到着したプロジェクト、Pebble TimeとMakeblockは立派だ。ほかにも、石渡さんのRapiroなど、見事に出荷したプロジェクトはある。それは彼らの優秀さの証でもあるし、個人ベースに始まったメイカーでもメーカーのようなことが本当にできるという証明でもある。クリスマスプレゼント用に買うなら、彼らから買うべきだろう。(そういう用途にKickstarterを使うのは、そもそもオススメできないけど。)
もちろん、不誠実なプロジェクトは責められるべきだし、うまくルールを作って排除できるならしたほうがいい。なんとなく立ち消えになったようなプロジェクトはむしろ他の人の参考になるように情報公開したほうがいいと思う。
きちんとした人を尊敬することと、できないけどチャレンジする人を生暖かく見守ることは両立する。というか、そういう自分に対するブレーキの外れたアホな人がいないと、クラウドファンディングは面白くない気がする。マニアが自嘲的に言う、養分というのはなかなか含蓄のある言葉だと思う。
いくつかのプロジェクトに出資してる人にとって、ここに書いたぐらいの確率でモノの到着が遅れる・場合によってはコケて来ないこともあることは、よく知られた話なのにもかかわらず、ハードウェア系のプロジェクト数も出資金額も増えているのは、いまいち合理的な説明がつかないけど、面白い現象だと思う。
追伸:
ハードウェア以外の事例も入ってる(というか、Kickstarterはもともと映画撮る資金をみんなから集めるものだったので、あたりまえである)ので、引用しようと思ったけどうまい部分が見つからなかったけど、Tokyo Otaku Modeのこのエントリすごくいいですね。Kicksterterの使われかたや傾向、全般に興味ある人はぜひ。「お金が集まらないプロジェクトは、惜しいところまで行くんじゃなくて、たいていカスりもしてない」とか、「だいたいのプロジェクトは失敗してる」みたいな興味深い話に、きちんとした集計がついてます。
メイカーズのエコシステム 新しいモノづくりがとまらない。 (OnDeck Books(NextPublishing))
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結果として、この本も出荷遅れしたので、話にオチがついた模様、、
「ハードウェアの製造はハードだ」と書いていたら紙の本もハードだった件と出荷遅れのおわび