読書録:アトキンソン「21世紀の不平等」とテクノロジー貧困対策

TAKASU Masakazu/高須正和
7 min readJun 2, 2019

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21世紀の不平等 アンソニー・B・アトキンソン (著), 山形 浩生 (翻訳), 森本 正史 (翻訳)

アトキンソン、「21世紀の不平等」読了。内容が普段考えてることから遠く、かつ多岐にわたっているので、ちゃんと理解できているかは怪しいものの、
-不平等が広がってるのは間違いない、世界的な状況である
-原因はいろいろ考えられ、どれもそれなりに正しいが決定打とも言いづらい
-なので対策もいろいろあるが銀の弾丸はない
のように内容を理解した。訳者の山形浩生さんも、解説で「不平等への多面的な取り組み」として、この分野の長老的存在のアトキンソンが不平等の原因と対策、そして視点について網羅したのが本書の価値だと書いている。

実際、引用されるデータの多くはとても興味深い。
2008–09のEU全体の統計で、就職してない貧困者が就職すると50%は貧困から抜け出せる。(つまり、就職しても貧困から抜け出せない人がかなり多くいる。他の国でも3–4割はめずらしくないらしい)
などは目から鱗だ。一回貧困者になると、たとえ職を見つけてもそこから抜け出すのは容易ではない。なので、その前になんとかできればいいのだけど、貧困にはさまざまな形がある。

先進国と貧困

発展途上国と貧困対策だと、まだわかりやすい。たいていの人はお金が欲しくてしょうがなくて、できる範囲でハードワークしたい。わかりやすく成果も出したい。だいぶ豊かな国になった中国でも、まだそういう価値観の人が多いだろう。アントフィナンシャルの成功法則で見られるアリババの取り組みは、多くの中国人に自分で商売できるツールを与え、実際に中国は今、世界一起業家が多い国になっている。一方で国内の所得格差は拡大している。

同じ起業をテーマにした「しょぼい起業で生きていく」だと、同じ「自分の才覚でカネを稼ぐ」テーマでも、「サラリーマンよりも自分にあった生き方をしよう」みたいに、トーンががらりと変わる。

僕自身は20年間の社会人生活で3回の転職を経験したけど、今も会社員だし辞める予定もない。そのほうがストレスも少ないし生涯賃金も上がる気がしている。一方で万人にそれが当てはまるわけでもない。

先進国になるほど、所得の考え方は多様になる。子供を育てる人と違う人、持ち家のあるなしなどで、必要なお金は変わるし、お金との付き合い方も変わる。もちろん、その先進国でも貧困から抜け出せない人は増えている。どうしようもない貧困は明らかに社会的な問題だが、どのラインからそこになるのか、誰がそのコストをどうやって負担していくのかは、複雑な要素が絡み、雑に対応すると社会の活力を損なう問題だ。

いまのところ、「全体の生産性をドンと上げる」のが最高の貧困対策なのは間違いない。でも、アメリカでさえそんなことはできてなく、格差は拡大して、貧困層と中間層の下部は親の世代より貧乏になっている。アジア諸国や中国のような発展途上国からまさに経済成長しつつある国でのみ、「全体の生産性を上げ続ける」が成り立っている状態だ。
シンガポールのような都市国家では、住宅の供給を政府がコントロールすることでうまく貧困対策をしている(中国でもこれはマネできるかもしれない)が、日本やアメリカでは難しい話だ。

テクノロジーと貧困対策

解説で山形さんも書いているが、「不平等を広げないような方向にテクノノロジーを伸ばしていこう」という視点はとても面白い。一方で、たいていのテクノロジーが「やりたい人により力を与え、何もしない人は相対的に地盤沈下していく」ものであるのも事実だ。既得権がないとプログラムや起業ができない時代は過去のものとなったが、それでも先進国での起業家はエリートの大卒が多いし、テクノロジーを使って新しい価値を生み出すためには主体的な意思と具体的な修行が必要だ。それは多分に環境によって培われるもので、全員がそうなることはないだろう。積極的に貧困者を増やすようなテクノロジーも思い当たらないが(Youtuberを目指して道を誤る、みたいな例はあるかも)

クラウドファンディング、ドネーション、パトロンみたいなプラットフォームは、ひょっとしたらお金を持っている人から持っていない人への移転を促進するテクノロジーかもしれない。このパパ活プラットフォーム創始者へのインタビューでもそのようなことが触れられていた。

僕は寄付やクラウドファンディング以外は使ったことがないが、こう言うものがどの程度大きくなるかはまだわからない。
まさにテクノロジーによる社会変革事例を世界中から集めたティム・オライリーのWTF経済でも、自分からコトを起こすアントレプレナー以外にとっての「テクノロジーが生んだ新しい働き方」として紹介されるのはYoutuberとUberの運転手ぐらいだった。
もちろんUberの運転手は好きな時間に好きなだけ働けるし、値段のつり上げもできるけど、これで不平等が縮まったかどうかは判断しづらい。少なくとも僕はUber使うようになってタクシー代の総額は減った。

高口康太さんが中国ギグエコノミーについての記事を書いているが、そこでもそうしたギグエコノミーが、結局はコストダウンとして使われていることがレポートされている。

新しいテクノロジーが既得権で儲けていた人から別のところに所得を移転するのは間違いないだろう。アメリカの音楽業界ではレーベルの取り分が下がってアーティストの取り分は大きく上がっている。
中国の著作権ビジネスについて語るファンキー末吉さんのこのブログはめちゃめちゃ面白い。

少なくとも、クリエイターにとってテクノロジーは良い影響をもたらしていて、それは当分続くだろうが、貧困というテーマ全体の中でその割合はあんまり多くない。

テクノロジーは主体的に使わないと効果が薄い。アリババのジャックマーは、「誰でも自分で商売を始められる社会」を目指して、テクノロジーでうまく実現した。
なんとなく、僕は貧困対策を専門にしている人はあまり自分でプログラム書いたりしないイメージがあるのだが、そこからサービスやソフトウェアが出てくることが一番の貧困対策になるのかもしれない。

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Written by TAKASU Masakazu/高須正和

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