研究者からエンジニア、芸術家からエンジニア(2016年06月17日記事)
最近いくつか、チームラボの同僚が学生向けにプレゼンをするのを聴く機会があって、メチャメチャ面白かった。
■ハッカーと画家
ハッカーと画家というとても面白い本がある。まず優秀なプログラマであり、成功したWebシステムを作った社長であり、そのシステムを米Yahooに売却して今はYコンビネータの創業者として投資家をやっているポール・グレアムが、優れたハッカー(この場合は、プログラマとかエンジニアと読みかえてもOK.以後はエンジニアにする)の考え方や仕事のしかたは、これまでの工場労働者的な仕事とは違っていて、むしろ創造する画家に似ている、ということを書いたエッセイ集だ。
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ポール グレアム
オーム社
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作業者から創造者へみたいな感じのテーマの本で、まず粗っぽくてもまず全体を作ることの重要性や、プロトタイプを作ってみることの重要性、悪い部分を躊躇無く捨ててやりなすことの重要性などについて語られている。
さいきん聴いたいくつかの同僚の話は、この本の内容を思い起こさせた。
- スクリーンみたいな限られた空間じゃない、床に作品が投影される
- 人間が塗り絵した生き物がそこを歩き回る
- 人間は生き物に触れると生き物は反応する
- 人間が同じ場所に立っていると花が咲く。花から蝶が生まれる
- 蝶やトカゲなどの生き物はそれぞれ食物連鎖していて、生態系がある
という作品なんだけど、生き物の動きや食物連鎖の部分はインタラクティブチームの人たちが作っている。
人間を正確にセンシングする部分はコンピュータビジョンチームというセンサー、認識などの専門家たちが、どういう条件で何をセンシングするかをもとに、最適な機材とセンシング方法をサーベイして、認識のプログラムを書いて作る。それぞれのグラフィックは絵師さんやデザインのチームが作る。それぞれ、作っておわりというより摺り合わせでクオリティを上げていく。
たとえば、「元の絵と3Dになったものとソレが動いたもの」なんかは、お互いレビューの交換やブラッシュアップが必要になるポイントだ。
■研究者からエンジニア -サーベイからアートへ
インタラクティブチームに、CGの研究室出身のエンジニアが何人かいる。チームラボは「無限に花がわき出てくる」みたいなジェネレートする映像、水の波紋や流体が溶け出すみたいな現実のシュミレーション的な効果をよく使う。
彼らのプレゼンは、これはxxxxというアルゴリズムを実装してみた、これは…をみつけて実装してみたという紹介がたくさん出てくる。このアルゴリズムの実装という行為は、アリモノのソースをコピーして意味もわからず使うみたいな話ではなくて、論文をサーベイしてきて、内容を理解して、論文にある数式をプログラムにして、調整する、みたいな話だ。
しかもチームラボの場合こういうアウトプットはきれいかな?気持ちいいかな?みたいな評価になるから、数値で判断しづらい。
必ずサーベイから入る、すごく科学者っぽいアプローチだけど、評価は感覚でやることになる。
研究は英語で言うとresearchで、研究者はresearcherだ。エセ科学と科学の差は、ちゃんと過去のリサーチ・サーベイができてるかどうかにあると僕は思っている。
■芸術家からエンジニア-感覚をプログラムで表す
インタラクティブチームには、美大出身のエンジニアも何人かいる。teamLab Meet-up #7「デザインとプログラム学んだ学生がチームラボ入社して4年経った」で、そういうエンジニアの話を続けて聴いた。
彼らは手元に「とりあえず作ってみた良い感じのアセット」を大量に持っている。ちょっと時間があくと、新しいプログラムの実験をしているし、VJなどの課外活動や個人作品も多い。自分はコレが作りたくて作ったみたいな感覚をとても大切にしていると感じた。メイカーとかティンカリングみたいな考えだとこっちのほうが近い。自分の実感を元に作ったものが、未来のヒントになっていることはいっぱいある。
プレゼン見た感想で、研究者出身の人とアプローチが違ってて面白いみたいなことを伝えたら、「自分のプログラミングスキルだと、見つけたアルゴリズムを間違いなく実装する自信ない」みたいな謙遜をしていたけど、彼らはパーティクルがたくさん出てくる処理をGPGPUで行ったり、プログラミングとして難しいこともたくさんやっているエンジニアだ。
うまい説明がみつからないけど、どちらもよいアウトプットを出していて、作り方にたくさんの共通点がある。どちらにも、ハッカーと画家的な視点がある。もちろん、アプローチの違いもある。こういうところを注目して何度も説明したりしていくと、エンジニアという仕事やエンジニアの集まりである集団の魅力がもっと伝わって楽しい社会になる気がする。
インタラクティブチーム内のチャットだと、どっちがつくっていて楽しいかみたいなやりとりをよく見かける。つくる面白さを重視して考えるのは、そう考えること自体が難しい(たとえば、僕は自分で作る人じゃないから、考えそのものができない)けど、エンジニア同士でしかできない、良いアプローチだ。